朧咲夜5-愛してる。だから、さようなら。-【完】
けど斎月のどこをとったら「さく」なんて呼び方になるのだろう、と頭の半分で考えつつ、背筋を伸ばした。
ひんやりした青年の雰囲気に圧倒されて、居住まいを正した。
「今、急がれていることは承知しています。一分でよいので、お時間をいただけないでしょうか。少しお詫びをしたく」
「え? お詫び? あの……どなた、ですか?」
青年の言うように、時間がないのは本当だ。
まさかくれた指示に関係しているのだろうか。
問うと、青年は袖の中で組んでいたらしい腕を解いた。
「司國陽(つかさ くにはる)と申します。伺ったのは、現在咲桜さんが抱えられている件とは関わりはないので、どうぞご案じなさらずに」
青年――司國陽は、目元一つゆるめない無表情でそう告げた。
「つかさ、さん、て――斎月の彼氏、のですか……?」
流夜くんも斎月も降渡さんも、『つかさ』という名をそういう意味で呼んでいた。
斎月の彼氏も年上だったのか。
司さんは一拍置いて、軽く肯いた。