朧咲夜5-愛してる。だから、さようなら。-【完】


けど斎月のどこをとったら「さく」なんて呼び方になるのだろう、と頭の半分で考えつつ、背筋を伸ばした。


ひんやりした青年の雰囲気に圧倒されて、居住まいを正した。


「今、急がれていることは承知しています。一分でよいので、お時間をいただけないでしょうか。少しお詫びをしたく」


「え? お詫び? あの……どなた、ですか?」
 

青年の言うように、時間がないのは本当だ。


まさかくれた指示に関係しているのだろうか。


問うと、青年は袖の中で組んでいたらしい腕を解いた。


「司國陽(つかさ くにはる)と申します。伺ったのは、現在咲桜さんが抱えられている件とは関わりはないので、どうぞご案じなさらずに」
 

青年――司國陽は、目元一つゆるめない無表情でそう告げた。


「つかさ、さん、て――斎月の彼氏、のですか……?」
 

流夜くんも斎月も降渡さんも、『つかさ』という名をそういう意味で呼んでいた。


斎月の彼氏も年上だったのか。
 

司さんは一拍置いて、軽く肯いた。

< 26 / 295 >

この作品をシェア

pagetop