朧咲夜5-愛してる。だから、さようなら。-【完】
先輩から、地を這う様な声が聞こえた。降渡さんの肩が揺れた。
「あ、はる――
「あれが神宮の相棒なんだな?」
俯いたままの遙音先輩。怒髪天の吹雪さんにも困っている降渡さんが、「そうだ」と肯いた。
ギリッと、顔をあげた先輩が鋭い眼差しを見せた。
「――上等じゃねえか。あの女男、超えてやる」
怒りや失望ではない、挑戦的な光。
その言い方をするならせめて男女なのだけど――と訂正しかけた私だけど、それは言わないでおいた。
流夜くん、吹雪さん、降渡さんという憧れがあっただけの先輩。
目標にして、そこへ近づこうと。
――憧れてしまえば、超えられはしない。
斎月に対して抱いた『超える』という感情は、先輩を流夜くんたちよりも高みを見せるだろう。
絆さんという、私が目標にした、先にいる人が出来て、私も憧れや目標の存在感がわかってきていた。
ごつん。
「痛っ、何すんだよ親父!」