朧咲夜5-愛してる。だから、さようなら。-【完】


あの日――宮寺先生の口から本当のことが聞かれた日以来、宮寺先生は私の前に現れてはいなかった。


医者という立場では尊さんがいたから、私から接触することもなかった。
 

宮寺先生が、近くにいる。


「………――――っ」


「え、咲桜ちゃん?」


「すみません! すぐ戻ります!」
 

降渡さんに言い置いて店を飛び出した。


――ところで、《白》の敷地に足を踏み入れたばかりの宮寺先生と目が合った。


「―――」
 

宮寺先生の視線が硬直した。


構わず突き進む。猫の鈴のような音が、扉が閉まったことを教えた。


「――――」


「逃げないでください、宮寺先生。先生を責めたくて出て来たんじゃありません」


「……華取さん、その申し訳
「すみませんでした」
 

謝りかけた宮寺先生を制して、頭を下げた。

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