朧咲夜5-愛してる。だから、さようなら。-【完】
宮寺先生を責める気持ちを抱いたことはなかった。
桃子母さんのことも、父さんならいつか知っていたはずだ。
それを暴いてしまったのが、たまたま宮寺先生だっただけで。
もしかしたら尊さんだったかもしれない。
今、このタイミングで、追いかける道を選べるときであったことが、せめてもの幸いだったと思う。
「……華取さん、……すみませんでした。俺のしたことは、間違いでもあるので、許せることでも謝らせてください」
今度は宮寺先生が深く頭を下げた。
……ひとつ、心に漂っていたものが融けていく。
少しだけ、泣きたくなった。
「……先生、もしよろしかったら勉強教えてくれませんか? ご存知かと思いますが、私、大学へは行きません。行政書士になるための勉強をしてます」
そうお願いすると、宮寺先生は虚を衝かれたような顔をしたあと、唇を噛んだ。
そして柔らかい笑みを見せた。
「勿論です。俺に出来ることなら、何でも」
――私の出来るゆるし方のひとつ。
自分に力を貸してほしい。
流夜くんを追うために。
「今、吹雪さんと降渡さんもいるんです。入って行かれませんか?」
「あ、じゃあ――」
私に呼ばれて、宮寺先生も《白》へと向かった。