朧咲夜5-愛してる。だから、さようなら。-【完】


生満子さんが両腕に笑満と遙音を抱きしめて、「オト、いつでもいらっしゃいね」と柔らかい笑みを見せた。


憲篤おじさんも肯く。


笑満と先輩に見送られて、二人は《白》から出て行った。


「りゅう、息するみてーに嘘つけんのな」


「お前ほどじゃない」


「あー、まああれの相手してりゃあなー」
 

フロアで交わされるその会話を、私は複雑な思いで聞いていた。


タイミングを逃して出て行きそこなってしまって、まだ頼と休憩部屋に隠れていた。
 

流夜くんが私とのことを当たり障りなく説明した部分ではなく――むしろ話したことは事実で、疑いをかけられない話術は見習いたいくらいだ――、三人が斎月の存在を先輩に黙っていることだった。


今も降渡さんは、『斎月』の名前は出さなかった。
 

先輩は知りたがっている。流夜くんの『相棒』と呼ばれる存在を。
 

嘘をついている? ……あれ、違う………。
 

嘘じゃない。


嘘をついていたら、先輩は流夜くんの『相棒』の存在も知らないはずだ。


遙音はその存在を認識していて、正体が誰かを知りたがっている。


『誰』とは、確信を持てずに。
 

――壁、なんだ。
 

唐突に、一つの言葉にいきついた。

< 73 / 295 >

この作品をシェア

pagetop