朧咲夜5-愛してる。だから、さようなら。-【完】
生満子さんが両腕に笑満と遙音を抱きしめて、「オト、いつでもいらっしゃいね」と柔らかい笑みを見せた。
憲篤おじさんも肯く。
笑満と先輩に見送られて、二人は《白》から出て行った。
「りゅう、息するみてーに嘘つけんのな」
「お前ほどじゃない」
「あー、まああれの相手してりゃあなー」
フロアで交わされるその会話を、私は複雑な思いで聞いていた。
タイミングを逃して出て行きそこなってしまって、まだ頼と休憩部屋に隠れていた。
流夜くんが私とのことを当たり障りなく説明した部分ではなく――むしろ話したことは事実で、疑いをかけられない話術は見習いたいくらいだ――、三人が斎月の存在を先輩に黙っていることだった。
今も降渡さんは、『斎月』の名前は出さなかった。
先輩は知りたがっている。流夜くんの『相棒』と呼ばれる存在を。
嘘をついている? ……あれ、違う………。
嘘じゃない。
嘘をついていたら、先輩は流夜くんの『相棒』の存在も知らないはずだ。
遙音はその存在を認識していて、正体が誰かを知りたがっている。
『誰』とは、確信を持てずに。
――壁、なんだ。
唐突に、一つの言葉にいきついた。