終夜(しゅうや)
「鼓動も同じ。怖がらずに、確かめてごらん。」
言われるままに、私は左手を胸に当てなおし、仁の指に絡めていた右手の力を抜き、仁の腕をさするようにして、今度は仁の胸に触れる。
お互いの鼓動を確かめたかった。しばらく無音の状況が続いたが、やがて、お互いの心臓の鼓動が分かるようになった。
仁と私の心臓の鼓動が、弱まる、強まる、弱まる、強まる。そして、止まる。
「仁は、私に対して何をしたの。」
手を当てるまでもなく、私の胸に鼓動が戻ってきているのが分かる。
対して、仁の胸の鼓動は弱く小さくなり、そして止まった。
あっけない幕切れに対し、私は言葉も出ない。
他人のような気がしないと思って愛したはずの仁は、こうして他人になってしまい、二人っきりの家族が終わった。
もう嫌だ、こんなことは嫌だ。
自分でも抑え切れない感情の波が来る。
私はそれに耐え切れなくなり、床を蹴り上げるようにして起き上がり、ベッドへと向かう。
途中、横たわって動かない仁の脇腹に爪先をめり込ませ、渾身の力を込めた蹴りを放ったつもりだったが、仁はピクリとも動かなかった。
「眠ろうなんて、思えない。」
こうして眠る安楽よりも、起きたままで居る時の興奮の方が心地良い。
眠るつもりが無いのなら、コーヒーでも飲めばいいのだが、そんな気持ちになれるはずもなく、私は、枕元へと手を伸ばした。
「煙草を、止めようと思っていたのにね……。」
仁と出会う前に、煙草を吸っていた記憶は無い。
味も吸い方も知らなかったのだから、仁の言うとおり、私は煙草を吸わず、興味すら持たなかったのだと思う。
落ち着いた赤い色の中に描かれた桜の花のパッケージ。その煙草の名は、チェリーだと聞かされていた。
言われるままに、私は左手を胸に当てなおし、仁の指に絡めていた右手の力を抜き、仁の腕をさするようにして、今度は仁の胸に触れる。
お互いの鼓動を確かめたかった。しばらく無音の状況が続いたが、やがて、お互いの心臓の鼓動が分かるようになった。
仁と私の心臓の鼓動が、弱まる、強まる、弱まる、強まる。そして、止まる。
「仁は、私に対して何をしたの。」
手を当てるまでもなく、私の胸に鼓動が戻ってきているのが分かる。
対して、仁の胸の鼓動は弱く小さくなり、そして止まった。
あっけない幕切れに対し、私は言葉も出ない。
他人のような気がしないと思って愛したはずの仁は、こうして他人になってしまい、二人っきりの家族が終わった。
もう嫌だ、こんなことは嫌だ。
自分でも抑え切れない感情の波が来る。
私はそれに耐え切れなくなり、床を蹴り上げるようにして起き上がり、ベッドへと向かう。
途中、横たわって動かない仁の脇腹に爪先をめり込ませ、渾身の力を込めた蹴りを放ったつもりだったが、仁はピクリとも動かなかった。
「眠ろうなんて、思えない。」
こうして眠る安楽よりも、起きたままで居る時の興奮の方が心地良い。
眠るつもりが無いのなら、コーヒーでも飲めばいいのだが、そんな気持ちになれるはずもなく、私は、枕元へと手を伸ばした。
「煙草を、止めようと思っていたのにね……。」
仁と出会う前に、煙草を吸っていた記憶は無い。
味も吸い方も知らなかったのだから、仁の言うとおり、私は煙草を吸わず、興味すら持たなかったのだと思う。
落ち着いた赤い色の中に描かれた桜の花のパッケージ。その煙草の名は、チェリーだと聞かされていた。