愛のない、上級医との結婚
そして夫婦になるまで
「聞いたぞ、高野くんから」
その日帰ると早速父にそう言われて、仕事早すぎかと心の中で突っ込んだ。
「それで、婚姻届は来週出すとか言ってたけど、……樹里、お前それで良いのか」
「ら、来週!?」
いきなりのことに目を見開く。
彼は何をそんなに焦っているのだ。そんなに循環器内科って忙しいのか。いや、内科では一番忙しいっていうのは知ってるけれど、それでもこれはあんまりだ。
「いやいや、さすがにそれは無いでしょ。向こうの家に挨拶も行ってないし、そもそももう少し準備期間というか、お付き合いの期間があるんじゃないの!?」
そう言うと、父も苦笑して少しだけ思案しているようだった。
「出世欲が強いから、理事長の娘であるお前を逃したくないのかとも思ったが、別に今の時代医師のポストだって世襲制じゃ無いしなあ。俺の息子になったからと言って理事長になれるわけでもないが、……まあ、教授選に将来でるなら少しは有利かもしれんが」
「それだって、絶対じゃないしね。それに高野先生くらい優秀で出身大学も一流だったら、私なんかと結婚しなくても自力で教授まで上り詰められそうだけど」
「そう思ったから彼を樹里の相手に推したんだが。こうも性急だと、何かあるのかと思ってしまうなあ。まあ、単純に樹里が可愛いから逃したくなくなったんだろうが」
脳内お花畑の父親には申し訳ないが、私の顔のレベルは極めて標準的である。万が一にもそんな事はないと思う。