愛のない、上級医との結婚
「え、そうなの!?」
「まあ、ルックスも悪くないしね。なにより出世頭だし、高野先生のご両親は海外に住んでるから面倒な付き合いも少ないだろうし、有料物件だっていう噂なんだけど」
……知らなかった。沢山研究して論文書いてるのは知ってたから、出世しやすいだろうとは思うけれど、そういう嫁姑問題的な話は一体どこから噂になるんだ。
「それで色恋なんか全く興味ありませんむしろ面倒ですって顔に出てるからね、高野先生は。言い寄られるのが単純に面倒になったんじゃない?結婚したらさすがにそういうの減るだろうし」
「そんな贅沢な……」
「まあ、真意は分かんないけどね、聞いたわけじゃないし。あくまで見たところはって話」
さすが近くで一緒に働いてるだけあって小枝子はよく知っている。
教えてくれてありがとうというと、いえいえと返される。
「……でもまあ、高野先生かあ。あんまり結婚に向いてなさそうだけど、樹里とだったら何とかなるのかなあ?」
「やだ、不安になる事言わないでよ」
「えー、だって真面目な高野先生のことだし、家でも抄読会されそう」
「うわ、それは地獄」
「でしょー?」
抄読会、とは最新の治験を記した英語の論文の読み合わせである。医局会で行われることが常だが、若手としては時間の無い中で論文を読んで医局員に配る資料を作って…となると中々やりたくないものである。