愛のない、上級医との結婚
♪〜
「あ、ピッチ」
腰で震えるそれを取って、ディスプレイに表示されたのは昨日登録したばかりの名前で、またドキっと心臓が跳ねる。
「あれ?未来の旦那さんからー?」
意地悪そうに笑う小枝子を軽く睨んで通話ボタンを押した。
「はい、深澄です」
『……高野です、いま宜しいですか?』
相変わらず少し突き放したように感じるその冷たい声に、いまだ鼓動は早いまま、私は是と返す。
「大丈夫です」
『そうですか、……今はまだ院内に?』
「はい、今一階のタリーズにいますが……」
『なるほど、少し時間が空いたのでお会いして話したい事があるのですが、いまからそちらに向かっても?』
何を話すのか何となく分かった私は、了解しましたとだけ返して通話を切った。
察した小枝子が、邪魔者は帰りまーすと去っていくのを見送りながら私は彼が来るのを待った。
暫くしてやってきた高野は少し汗が額に滲んでいて、今日もまたカテ室に篭っていたんだろうと思った。