愛のない、上級医との結婚
「昨日、理事長に了承の旨を伝えさせて頂きました」
私が座っていた席は横並び専用のソファであるため、一人分ほど空けた隣に高野は座り、おもむろにそう言った。
「父から聞きました。あの、それで……籍を入れる日にちについて来週だと伺ったのですが、聞き間違い、ですよね?」
ちら、と横を向いて、高野の顔色を伺う。
高野は視線を真っ直ぐ前に向けたまま、私を見ずに告げる。
「……僕の希望は、そうですが」
「えっ、来週!?」
「……できたら、同棲も同時期に始められたらと」
「え、ええええ!?」
しばらく絶句して、食い入るほど高野の横顔を見つめる。
丁寧に梳かれた短めの髪、冷たく見える一重の少し吊り上がった目、すっきりと通った鼻筋。
その怜悧な視線をこちらに向けて、睨むように高野は言う。
「君は後期研修医だし、まだそこの寮に住んでいるんだろう」
ピッと指差された先にあるのは、窓から数百メートル先に見える大きめの建物で、それは初期から後期研修医、大学院生が住めることになっている独身寮だった。ちなみに家具備え付けであるため引っ越しとなったら確かにすぐに引っ越せる。
「確かに私はすぐ引っ越せますけど、そもそも高野先生の家に私の棲めるスペースはあるんですか?」
そういう問題じゃなく、本当は気持ちの問題でこんなスピードで籍を入れるのも同棲するのも気が引ける。
だからどこかに逃げ道は無いのかと高野を質問攻めにすることにした。