愛のない、上級医との結婚
「ベッドだって買ってないですし、私の大量の服とか化粧品とかそういうの入れる収納スペースだって一人暮らしの高野先生の家にあるとは思えないです、せめて二人で住めるとこ探してからじゃないとっ」
至極まっとうな意見を言ってやった、とばかりに鼻息荒く高野に詰め寄るも、目の前の男は平然としたままさらりとそれを受け流す。
「僕の部屋は3LDKだが1部屋空いてるし、クローゼットも2つほど空いている。君のベッドは昨日発注しておいたから週末には届く。……他に問題は?」
えっ、なにそれ怖い。
昨日の今日でもう外堀が埋められつつあるこの状況はいったい何なのか。
「い、医局に結婚の旨も説明しないとですし…l
「それならこちらは今朝報告して来た。特に問題はなかったが……もし式を挙げたいなら確かにもう少し時間が要るな、循環器内科と腎臓内科でどれくらいの規模の医局員を招待するか考えなくてはならない。まあそれでも籍だけならばすぐに入れられると思うが」
「あ、私、別に式挙げなくても良いのでそこは考えなくて大丈夫です。もしやるなら家族だけでハワイとかで挙げたいですねーーって、報告早いですね!?」
なんだ、この即断即決オトコは。
先ほどからずいぶん振り回されて力なく項垂れた私は、半ばヤケクソのまま、かつての上級医に向かって口を開いた。
「……そんなに急ぐ理由ってありますか?もし結婚して失敗したらとか……高野先生は考えないんですか?」