愛のない、上級医との結婚
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入籍後の最初の食事は
「……というわけで、私、深澄樹里は今日籍を入れて高野になって参ります」
あれから十日後、次の週の金曜日になった。
荷物はすでに高野のマンションに搬送済みで、あとは今日これから籍を入れて仕舞えば同棲が始まる。
早すぎる展開ももはや意地で推し進めた私は、頑固なのか負けず嫌いなのかもしくはそのどちらもなのだろう。
宣言した先には、腎臓内科での上級医である佐島と、いまローテートで1ヶ月回ってくれている研修医一年目の春見奈々子ちゃんがいる。
二人はちょうど医局のソファで来月の地方会の学会スライドを作っているところで、高らかな宣言をした私を何か可哀想なものでも見る目で見つめている。
「樹里先生、今から入籍しに行くのに新婚さんの幸せとかからかけ離れた雰囲気出てますけど……大丈夫でしょうか?」
「まるで闘いに向かう勇ましい戦士の如き気迫だな、深澄……」
「なんとでも言うがいいです、私はこれで晴れて既婚者ですからね。女医の3分の1ルールの勝ち組になった訳です」
すなわち、女医のうち3分の1が結婚できて幸せに暮らし、3分の1が結婚できず、残り3分の1が結婚できても最終的に離婚すると言われている都市伝説である。
「……離婚ルート待ったなしな気がするが大丈夫か?」
「佐島先生、声大きいですっ」
「……二人とも、聞こえてるからね」
そこで医局にノックの音が響く。
どうぞ、と声をかけるとそこから顔を出したのは高野頼仁その人だった。