愛のない、上級医との結婚
「あ、あとひとつ言いたいことがあるんですけど」
出前の袋を二つ分持った高野に少し意地悪く笑って。
「“人”を待たせてるから早く終わらせたって言いましたけど、そこを“妻”にしたらちょっとドキッとしたかもです」
「……何を言ってるんだ君は」
呆れてものも言えない、とでも言いたげに微妙な顔を向けてくる高野。
口説くなんて言葉が彼の頭の中の辞書には無いのだろう。
本当に、二年前はじめて話したときと印象の変わらない真面目なカタブツなのだ、高野は。
「冗談です」
そして二人で医局を出てエレベーターに乗り、病院の最上階の職員専用ラウンジに行く。
9時を回ったそこは、お昼の賑やかさとは打って変わって無機質な誰もいない白い空間が広がる。てんてんと柔いオレンジの明かりが灯っている以外、何もないそこの窓際のテーブルに向かい合って座って、まだ温かい出前の袋を開け始める。
「お、カレー」
少しだけ浮ついた高野の声音に少し笑う。
「ハンバーグトッピングと、野菜トッピング、どっちがいいです?私はどっちも好きなので高野先生選んでください」
「そんなのハンバーグに決まってるだろ」
「どうぞ」
嬉しそうにハンバーグカレーを受け取った高野に「ハンバーグ好きなんですか」と何とも無しに尋ねる。
「好きだな、チーズがかかってたら嬉しい」
「なるほど」
今度作ってみたら喜ぶんだろうか。チーズハンバーグに飛び跳ねる高野を思い浮かべて、あまりの似合ってなさにひとり絶句した。