愛のない、上級医との結婚


「あ、いくらだ?」


ハッと気付いたようで、高野は白衣のポケットから財布を出す。
ちょうど食べようとしていた私は「別にいいですよ」と返す。そうして、いただきますとカレーを口に運んだ。ココイチのカレーはいつだって美味しい。


「いや、そうもいかないだろう。そもそも君は僕より二つ学年が下なわけだし。年下に奢られるのはなんだか居心地が悪い」


「まあ、その気持ちは分かりますけど。6年間学生やってた時って部活とか全部上が奢りますもんね」


他の学部や学校がどうかは知らないが、大学時代、医学部では絶対的に上が下に全て奢る。特に運動部ではそれが顕著で、そんなので6年間慣れてしまうと、下にお金を出してもらったときの気持ち悪さったら無いのだ。医師になってからもその風習が引き継がれることも多い。


良い機会だ、と私は一旦スプーンを置いて彼に向き直る。


「結婚後のお金の話して良いです?」


「え?ああ、良いが……」


「基本、家賃に光熱費全部出してもらってますし、食費は私が出します。なんなら家賃とかも言って貰えば出しますし」


それに高野はいや、と首を振る。


「家賃も光熱費も要らない。元々僕が住んでた家に来てもらうんだし、何も出費は変わらないしな。食費だって僕も家に入れるが」


「いや、私だってそれなりにお給料もらってる訳ですし大丈夫です。まあ、何か他に出費があるときにはお互い要相談と言うことでいいですか」


「わかった、何か入り用なときは遠慮無く言ってくれ」


「了解です」


淡々と事務手続きでもしているかのように確認しあって、改めてカレーに向き合ってお互い食べ始めた。全く夫婦らしくはないが、それなりに上手くやれそうな予感がした。何より彼は頭が良いから、会話のテンポが良くて話が早いのだ。

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