愛のない、上級医との結婚
部屋に入ったのはいいものの、何となく居心地悪そうに棒立ちしている高野先生は、モテそうなのに女慣れしていない雰囲気で、そこまで恋愛経験がない私としては親近感がすごい。
「高野先生、女子の部屋に入るの、もしかして得意じゃないんですか?」
「……そんなもの得意でどうするんだ?」
冷たい目で言われて、くふふと笑ってしまう。
「まあ、そこらへんに座ってくださいよ」
ぽんぽん、とかわいいピンクの丸い座布団を叩くと、すこし顔をしかめた後で座布団には座らず、直に絨毯の上に高野は胡坐をかいて座った。
「お茶でも淹れてきますか?」
「いや、いい。すぐ出る」
愛想のないその言葉に少しがっかりしている自分がいて、いや確かに高野に多少の憧れはあるけれどがっかりするほど入れ込んではないぞと心の中だけで首を振る。
「……わざわざ言う必要もないかとは思うが」
高野がおもむろに口を開く。
「はい、なんでしょう」
「結婚して夫婦になったからには、ある程度ルールが必要だと思う」
「なるほど、例えば」
ぴしり、と高野は人差し指を立てた。
「嘘はつかない。無論これに不倫や裏切りも含まれる」
「……すごい、それをモテの権化である職業別不倫率不動の第一位『男性医師』である高野先生から言って下さるなんて思いませんでした」
「その不動の第一位ってどこのエビデンスだ?」
「私調べです!」
「エビデンスレベル一番低いやつじゃないかそれ……」