愛のない、上級医との結婚
こほん、と咳払いして高野は改めて真っすぐこちらを見る。
「返事は?」
「オーケー。わたし、嘘、つかない」
「よろしい」
満足げに頷いて、今度は二本目の指を立てる。
「二つ目以降は思いつかないから随時追加予定だ」
「考えてなかったんですか!」
めちゃくちゃ続きがありそうな雰囲気だったのに!!!
立ち上がる高野に、そう突っ込むと彼は少し笑う。
「まあとにかく、なんかあったらいつでも頼ってくれ。その…君は、あれだ」
「あれ?」
そうしてたっぷり三拍分黙った後で。
「……妻、だからな」
………。
「先生、聞こえなかったのでワンモアプリーズ」
「君が、『妻』にセリフを変えたらいいとかなんとかって言ってたから言ってみただけだろうが!何回も言うもんじゃないんだこれは!くそ、こっぱずかしい!!」
そうして怒ったように去っていった高野の顔は怒りのためか照れなのか、きっとその両方で赤く染まっていた。
その後姿を見て改めて私は決意する。
ふむ、やはりこの男を私に惚れさせたい。きっとさらに愉快で面白い顔が見れるんだろう、と想像して、私はニヤリとした。決して、さっきの『妻』なんて単語が嬉しくてニヤニヤしているわけでは断じて、断じて無いのである。