愛のない、上級医との結婚
同棲2日目
高野先生の朝は早い。
私の知る限り、消化器外科や心臓外科、循環器内科など所謂ハイパー(忙しい)科はどこもそうなのだろうけれど、朝はやることが多いのである。
ちなみに私は忙しさは医者としては一般的なのでいつも8時までに出勤している。そして現在朝7時、まだ余裕がある時間である。
今日は土曜日だが、大学病院は普通に開いてる日なので我々も出勤しなければならないのが少し憂鬱ではあるのだけれど。
ということで昨日の夜のうちに言われていたことだが、朝は別々なのである。
コーヒーを飲み、焼いたクロワッサンを優雅に食べながら考える。
さて、惚れさせてやると意気込んだはいいものの、具体的に何をすれば良いのか全く分からない。
「前の彼氏のときはどうだったっけ」
私が今まで付き合ったことがあるのは恥ずかしながら一人だけである。
彼は大学の部活の先輩だった。
新歓のときからやけに親切だなと思っていたら入部後間も無く告白されたのだ。
彼が四年生、私が一年生の時の話だ。
そこから彼が卒業するまでの三年間付き合って、彼が地元の九州に帰るから別れたのだった。
我ながら、来るもの拒まず去るもの追わずの受け身姿勢で、なんなら彼が私を好きになってくれた理由も顔とか雰囲気、とかだったはずで。全く参考にならない話だ。
「誰かに好きになってもらおうなんて思って、成功した試し無いしな……」
ほか、中学高校の片思いは全滅なので、やはり参考にならない。
でもあんなに辛かった高校受験も大学受験も国家試験もやっぱり努力でなんとかなったので、なんとかならないということは無いんじゃないかと思う。
ちょっとそこ、恋愛と勉強は違うとか言わないで。
「よし、分かんないことは専門家に聞くのが一番だよね!」
かくして考えることを放棄し、ある人物を頭に思い描いた。