愛のない、上級医との結婚
土曜日ということもあり、早めに上がらせてもらうことになった私は、近所のスーパーで食材を購入して一人帰路に着く。
ガチャリとドアを開けて家に入るも、誰の気配も無い。
高野先生はまだ仕事中なのだろう。
食材をどかっと広いキッチンに置いて私は腕を捲った。
「っしゃ、作るぞーー!」
そうしてスマホで厳選したレシピ片手に、私は午後4時から料理を作り始めたのだった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「つ……疲れた……」
夜7時半、ようやっと全ての料理を作り終えた。
この頃にはもう私は精魂尽き果ててグッタリと椅子に座り込んでいた。
なにもここまで頑張る必要があったのだろうか。既にベッドにダイブしてしまいたい気持ちでいっぱいである。
元々一人暮らしで料理なんかチャチャっと済ませるかコンビニもしくは外食。
週一回は同期と飲みに行ってて週2回は実家でご飯を食べていた私に、誰だ料理しろなんて言った奴は。……私か。
慣れないのに何故ローストビーフを作ったのか自分でも疑問だが、加えてヴィシソワーズとかいうオシャレスープは裏ごし?とかいう謎工程のせいでローストビーフより難解だった…。あとピラフとかオシャレにんじんサラダとか、ちょっと私レベルには早かった気がする。
全体的にベチャッとしたり、味薄くね…?となったりあまり上手くできた気もしない。
慣れないことはするものじゃない。
でも、私は高野先生の胃袋をつかみたい。
唯一意外と簡単なのに美味しいローストビーフの出来が私の荒んだ心を慰めてくれていた。
ガチャっと鍵が開いた音に、私はハッとして立ち上がる。
どうやら主人のお出ましのようだ。