愛のない、上級医との結婚
二度目の会話はカンファ室で
その日は春うららかな陽気の5月の昼休みの頃だった。
腎臓内科に入局したての私は、2年先輩の佐島先生に奢ってもらったコンビニ飯を医局のソファでガツガツ食べていたその時。
♪〜
「深澄、ピッチ鳴ってる」
「えー、病棟からですかねぇ。嫌だなぁ、急変とかだったら」
「どうせ薬の処方間違ったとかじゃないの、お前今月何回かやらかしてるだろ」
「げ、あれも面倒くさいんですよねー直すの」
そんな会話をしていたから、ピッチの画面に出ていた知らない番号にも何の疑問も持たなかった。
「はい、深澄です」
『わたくし循環器内科の高野という者ですが』
ドキ、と心臓が嫌な音を立てた。
急速に身体が強張っていくのを感じながら、少し前に父親から見合いの話があったことを思い出す。
『深澄先生、いまお時間大丈夫でしょうか』
こんな医者になって間もないペーペーにも律儀に都合を聞いてくる高野に、見えるはずもないのにコクコクと頷きながら、
「だ、大丈夫です!」
思いっきり裏返った声で私は答える。
なんだ、何がどうして高野先生から直接電話が来るんだ。
不審そうにこちらを見つめる佐島から逃げるようにコンビニ飯をテーブルに置いて医局を出た。
「なんの御用でしょうか?」
まさかコンサル(他科からの患者の紹介)ではあるまい。
そうでなければ、私的な要件に決まっている。