愛のない、上級医との結婚


『理事長からお話は伺ってますか?』


尋ねられて、やっぱりその話か、と納得する。


「はい、この前父から聞きました。そう遠く無いうちに顔合わせがあるとか」


『それなんですが、今からでもよろしいでしょうか?』


「え」


『え?』


いや、いやいやいやいや。


「え、あの。私あと30分くらいしたら病棟行こうと思っていて…」


『ああ、それなら良かった。自分もあと30分後からカテあるんで。
じゃあ、すぐそこの5階のカンファ室で落ち合いましょう、今から』


プッと切れて、私は呆然と立ち尽くす。


あ、今から?いますぐ?
カンファ室は確かにいま私がいる場所の目の前だけど、え?


牛丼のタレが口の端に着いてる当直明けのこの状態で会うの?顔ドロドロなのに??
化粧直しもせずに???


沢山の疑問とともに、せめて口紅だけでも、と思って近くのトイレに駆け込む前に、その向こうから高野頼仁の姿が見えて、私はすべて諦めた。


もしこれで結婚を断られても、それはそれで仕方ないか、と。

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