隠れクール上司~その素顔は君には見せはしない~1
押したい気持ちがないことは、ないけどねえ…
今日こそは予定通り沙衣吏と2人で居酒屋に来ることができた。しかし、今日の関との会話を話すつもりはない。
それに、今日は沙衣吏の話を聞く日なのだ。
酒に強そうに見えて実はあまり飲まないらしい沙衣吏は、カルピス酎ハイという実に可愛らしい物をまず選択し、私のレモン酎ハイと乾杯してくれる。
「お疲れ様です」
「うん。ここ、いいお店だね。ここが良かったねー」
「ほんっと、すみません!!」
再び頭を大きく下げる。
「でも、この混みようならあの時間に予約しても予約取れなかったかもね」
「まあ…今日も2人ぎりぎりだったんで、そうかもしれません…」
沙衣吏なりに気を遣っているのではない、素がそれなのだ。
沙衣吏は見た目が綺麗ということもあって、とにかく第一印象が良い。喋り方も愛想もいいし、愛興もあるので、男女に関わらず、お客さん、従業員、先輩、後輩からも慕われている存在だ。
AV部門長の八雲は奥さんと別居しているとかで、直属の部下である副部門長の沙衣吏を狙っているんじゃないかという噂もある。
どこをとっても引けを取らない沙衣吏は売り場のアイドルと言っても過言ではない、と美生は常に思っていた。
「で、話ってなんです?」
「そんなこと言った?」
「……」
確かに、言ってはないかもしれない。
「でも、誘おうと思ってたって言ってくれたから。……ひょっとして、航平君のことかなあとか」
この話題は避けた方がいいかもしれないと思っていたのにも関わらず、すぐに出てしまう。
「……あれから、何か言ってた?」
あれきりだからね、と、先ほども口にした言葉しか蘇らない。
「うーんと……」
「何も言ってなかったでしょ?」
「……まあ……」
こちらから聞かない限りは、何も言ってなかった。
「押したい気持ちがないことはないけどねえ……」
「………」
相手には何の気持ちもないことはよく分かっているので、何も言えない。
「なんか、あんまり興味を持ってくれてないのが伝わったから」
「………そうですか……」
あの時はそうだったのかなあ……全然気づかなかったな……。
「気付かなかった?」
「全然」
「結構ほんとに酔ってたんだね。
いいかなあと思わないでもなかったけど、冷静になって考えると、ダメだろうなっていうのが分かっちゃってね」
「………」
「結局、元彼と戻っちゃった」
「え」
それはヤバいのでは…。
「その……、そのぉ……」
「前見た人だよ」
「………結構年上ですよね?」
「そう? そんなでもないのよ。普通の明るい人。けどなんか、そういう時あるじゃない。他の人の方がよく見える時」
「………。でも、一旦別れた後に航平君のことを好きになったんですよね?」
好きというほどじゃなかったかもしれないけど。
「うんまあ。なんかもやもやしてたところに、湊部長だったから」
役職が良く見せているんだ、という言葉がまた蘇る。本当にそうだったのかもしれない。
「あの、じゃあ今の彼氏は何してる人なんですか?」
「サラリーマンだよ。普通の」
「……」
結婚してる人ですか、なんてさすがに聞けない。
「だから、部長ってゆーのが恰好よく見えたのね」
沙衣吏は自分で言って、自分で首を振って納得した。
「関店長はどうなの?」
「別に…どうって」
今日は話したが、あれはあくまで業務上の面談だ。
「今日私服で来てたの見た?」
「見ました」
というか、話した。
「あれはヤバいよー。携帯部門がそれで騒いでた」
携帯部門というのは、男性従業員が1人しかいないハーレム部門たが、そこには関ファンがたくさんいると言われている。
「恰好良かったですよね…」
「でもいいじゃん。湊部長に手配してもらえれば、いつでも食事行けるんだから。いつも歓送迎会とか絶対来ないじゃん。それが、だよ?」
「うーん、そうですねえ…」
という事情ではないのだが。
「なんか……あの日を振り返ってみて、ちょっと違った?」
「そうですね……。なんだか、食事行ったところで、全く近づいた気はしないです」
「……そうなんだねえ……」
それに、今日は沙衣吏の話を聞く日なのだ。
酒に強そうに見えて実はあまり飲まないらしい沙衣吏は、カルピス酎ハイという実に可愛らしい物をまず選択し、私のレモン酎ハイと乾杯してくれる。
「お疲れ様です」
「うん。ここ、いいお店だね。ここが良かったねー」
「ほんっと、すみません!!」
再び頭を大きく下げる。
「でも、この混みようならあの時間に予約しても予約取れなかったかもね」
「まあ…今日も2人ぎりぎりだったんで、そうかもしれません…」
沙衣吏なりに気を遣っているのではない、素がそれなのだ。
沙衣吏は見た目が綺麗ということもあって、とにかく第一印象が良い。喋り方も愛想もいいし、愛興もあるので、男女に関わらず、お客さん、従業員、先輩、後輩からも慕われている存在だ。
AV部門長の八雲は奥さんと別居しているとかで、直属の部下である副部門長の沙衣吏を狙っているんじゃないかという噂もある。
どこをとっても引けを取らない沙衣吏は売り場のアイドルと言っても過言ではない、と美生は常に思っていた。
「で、話ってなんです?」
「そんなこと言った?」
「……」
確かに、言ってはないかもしれない。
「でも、誘おうと思ってたって言ってくれたから。……ひょっとして、航平君のことかなあとか」
この話題は避けた方がいいかもしれないと思っていたのにも関わらず、すぐに出てしまう。
「……あれから、何か言ってた?」
あれきりだからね、と、先ほども口にした言葉しか蘇らない。
「うーんと……」
「何も言ってなかったでしょ?」
「……まあ……」
こちらから聞かない限りは、何も言ってなかった。
「押したい気持ちがないことはないけどねえ……」
「………」
相手には何の気持ちもないことはよく分かっているので、何も言えない。
「なんか、あんまり興味を持ってくれてないのが伝わったから」
「………そうですか……」
あの時はそうだったのかなあ……全然気づかなかったな……。
「気付かなかった?」
「全然」
「結構ほんとに酔ってたんだね。
いいかなあと思わないでもなかったけど、冷静になって考えると、ダメだろうなっていうのが分かっちゃってね」
「………」
「結局、元彼と戻っちゃった」
「え」
それはヤバいのでは…。
「その……、そのぉ……」
「前見た人だよ」
「………結構年上ですよね?」
「そう? そんなでもないのよ。普通の明るい人。けどなんか、そういう時あるじゃない。他の人の方がよく見える時」
「………。でも、一旦別れた後に航平君のことを好きになったんですよね?」
好きというほどじゃなかったかもしれないけど。
「うんまあ。なんかもやもやしてたところに、湊部長だったから」
役職が良く見せているんだ、という言葉がまた蘇る。本当にそうだったのかもしれない。
「あの、じゃあ今の彼氏は何してる人なんですか?」
「サラリーマンだよ。普通の」
「……」
結婚してる人ですか、なんてさすがに聞けない。
「だから、部長ってゆーのが恰好よく見えたのね」
沙衣吏は自分で言って、自分で首を振って納得した。
「関店長はどうなの?」
「別に…どうって」
今日は話したが、あれはあくまで業務上の面談だ。
「今日私服で来てたの見た?」
「見ました」
というか、話した。
「あれはヤバいよー。携帯部門がそれで騒いでた」
携帯部門というのは、男性従業員が1人しかいないハーレム部門たが、そこには関ファンがたくさんいると言われている。
「恰好良かったですよね…」
「でもいいじゃん。湊部長に手配してもらえれば、いつでも食事行けるんだから。いつも歓送迎会とか絶対来ないじゃん。それが、だよ?」
「うーん、そうですねえ…」
という事情ではないのだが。
「なんか……あの日を振り返ってみて、ちょっと違った?」
「そうですね……。なんだか、食事行ったところで、全く近づいた気はしないです」
「……そうなんだねえ……」