秘書課恋愛白書
ファーストコンタクト
その日はとても浮かれていた。
鼻歌交じりにカツカツとヒールを鳴らして歩く。
今日まで2年間勤めていた出向先での仕事が無事に終わり、お世話になった雇い主から高級ブティックのスーツを仕立ててもらったからだ。
この仕事を頑張って良かったと思えるのはこういう時だろう。
足取り軽く、ルンルンで行きつけのBARへと向かう。
歓楽街の外れの路地にそのお店はあった。
外観は決して派手なものではなく、知る人ぞ知る隠れ家的な存在。
OPENと書かれたプレートを確認し扉に手をかけた。
カランカランとベルが鳴りこじんまりとした店の入口に足を踏み入れる。
壁掛けの時計に視線を向けると、時刻は午後20時を回っていた。
店内を進んでいくと、ライトアップされた大きな水槽がお出迎えしてくれる。
脇の階段を降りると顔なじみのバーテンダーが私へと駆け寄る。
いらっしゃいませ、と言って持っていた荷物とコートを預けた。
カウンター席と区切られた数カ所の個室。
金曜日の夜はどちらかといえば仕事帰りの女性客が多く、しっとりと流れるクラシックがまた良い雰囲気を醸し出している。
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