秘書課恋愛白書
あれから5年。
時間が経てば笑い飛ばせてしまうほどどうでもよくなってると思ってたのに、記憶から抹消されないそれは私を苦しめる。
次に進めず、恋愛が出来なくなったのもそのせいかもしれない。
でも、気づけてよかった。
一瞬でも社長の毒牙にやられてオチかけていた自分に気づけた。
社長がどういう人間なのかも身をもって知った。
スーツをプレゼントされたり、わけのわからないアクセサリーをつけられたり。
そんなことされたら、少しでも意識しないわけがない。
でも所詮、社長は私をただの所有物としか思っていないということだ。
こんなことで一喜一憂している場合でもなければ、考えてる場合でもない。
一回一回こんな風に社長のペースに乗せられていたら仕事どころではなくなってしまう。
「私は…秘書よ」
そう、私は社長のただの秘書。
雇い主と雇われる側の人間関係。
決して恋に落ちることのない間柄。
流し台で口をゆすぎ、鏡の前でいつもの冷静さを取り戻りたところで、私は仕事に戻るのだった。