秘書課恋愛白書
シートベルトを外そうとした手が強く握られ、本当に降ろしてくれなさそうな雰囲気。
渋々頷くとホッとしたような顔をしてみせた。
「じゃあ、また」
「…う、うん」
送ってくれてありがとう、とお礼を言うと微笑むユウの笑顔はあの頃とまったく変わらない。
不覚にも、少しだけときめいてしまった。
Uターンして発車する車を見送ってどっと疲れが押し寄せる。
何してるんだろう私。
昼間の観光はあんなに楽しかったのに、ここ数時間でこんなに疲れるとは思わなかった。
盛大に溜息をついて踵を返してホテルの玄関の自動扉が開いて踏み入れると…
「遅い。今の車ウチのじゃないよね。誰?」
腕を組んで冷ややかな視線を私に向け、仁王立ちした社長の姿がそこにはあった。
「社長……。ただいま戻りました」
「僕、20時っていったよね?今何時だと思う?」
不機嫌さを隠すことなく言葉にトゲがある。
言われて腕時計に視線を落とせば……21時を過ぎていた。
気づきませんでした、なんて言い訳は絶対通用しない。
ああ…これ、怒られるやつだ。