秘書課恋愛白書
「先週綾女を連れて京都に出張に行ったんだ。その時ちょっと暇を出して観光に行かせたら夜帰ってこなくて、しかも男に送ってもらうとか何考えてるんだか」
「出張先で?まさかの彼氏持ちですか?」
「学生時代の友達って言ってたけど…どーだか」
それも本当かどうか僕にはわからない。
綾女がそうやって言うからそういうことにはしておいたけど、実際のところはどうなのか。
しかも、ホテルに戻ってきた時の顔が泣いた後みたいに目と鼻が赤くなっていたのをよく覚えている。
「アヤメちゃんモテそうなのにそういう話全く聞いたことないんだよなぁ。あ、でも学生時代に彼氏いたことあるっていうのは聞いたことあるかも」
「じゃあその男、もしかして学生時代の彼氏なんじゃないですか?」
「それは偶然すぎない?」
僕そっちのけで話を進めるマスターとたけるの会話を流しながら聞く。
学生時代の彼氏…か。
その路線は全く考えなかった。
たしかにあの時、車から降りて来る綾女と話す男は親しげだった。
感じたことのない気持ちが湧き上がったのをよく覚えている。
綾女は僕だけ見てればいいのに、と。