秘書課恋愛白書
ちょっと失礼、と言って画面を見るなり席を立つと外へと出て行くたけるに手を振る。
カランカランと音を鳴らして扉が閉まった。
静かな店内に僕とマスターだけ、それを見計らったようにマスターが口を開いた。
「それにしても…レイちゃんがアヤメちゃんをねー…」
「何か言いたげだね、マスター」
「アヤメちゃんには幸せになってほしいんだよ。あの子…強そうに見えて実は一人ぼっちなんだ」
「一人ぼっち?」
そう聞き返すと、マスターは小さく頷いて僕の目を見つめた。
「さっきも話したけど、アヤメちゃんは彼氏に浮気された時とたった1人の家族であるお母さんを亡くしたのが時期がほぼ丸かぶりなんだって」
「…家族調書を読んで母親しかいないのは知ってたけど、亡くなってたんだ」
「だからさ、レイちゃんがアヤメちゃんを幸せにしてあげてよ」
まるで自分の娘のように綾女のことを想っているのが伝わってくる。
その気持ちに応えたいとも思った。
すると、慌てたような足音がして振り返ればたけるがこちらに駆け寄ってきた。
「怜…いま外にいたら向こうの歩道に中原さんがいて」
「綾女が?」