秘書課恋愛白書
食事を終え、タクシーを拾うべく駅までの道をゆっくりと歩く。
思ったよりも時間が経つのは早くて気づけば終電を逃してしまっていた。
「ごめんな、俺がもう少し時間に気をつけていれば」
「全然大丈夫。それに明日からまた休みだから」
腕時計に視線を落として溜息をついて私に謝るユウ。
私だって時間を確認しそびれたのだからユウだけのせいではない。
深夜を回った歓楽街は人気もそこそこで車もまばら。
やはり終電前には皆帰ってしまうのだろう。
もう少しで駅前というところで急にユウが立ち止まった。
「綾女…最後にひとつだけお願いがあるんだけど」
足取りの止まった隣に気づいて振り返ればそんなことを言う。
お願い?なんだろう?
「どうしたの?」
「最後に一回だけ、抱きしめてもいい?」
え?抱きしめる?
私の足もピタリと止まる。
「お願い…もう会わないから、最後に一回だけ」
「……わかった」
薄暗い夜道で外灯の元に立つユウの瞳には薄っすらと涙が浮かんでいて何も言えなくなってしまった。