秘書課恋愛白書
「綾女」
「……なんですか」
「僕が現れなかったらあの後どうするつもりだった?」
「ど、どうって…ふつうに帰るつもりで…」
帰る以外に何があるというのだろうか。
L字型の大きなソファーに押し倒された私に迫る社長はネクタイを緩めながら顔を近づけてきた。
相変わらず迫ってくる目が笑ってないし、これは壁ドンならぬソファードンというやつだろうか。
なんて、お酒の抜け切った頭は冷静に状況を分析し始める。
「馬鹿だね。深夜に終電を逃した男女が行き着く先なんて決まってるじゃん。普通に帰れると思った?」
「わ、私と彼はそんなんじゃ…」
「前にも言ったよね。男なんて隙あれば狼に変わるんだよ。アイツの腹の内なんて綾女にわかるわけないでしょ」
「…本当に何にもないです」
「じゃあ、なんであそこで抱き合ってた?」
「そ、それは…」
最後のお願いと抱きしめていいか聞かれ、それに応えたからであって…
それ以上は何もしていない。
するり、と私の頬を撫でる社長の手にぴくりと体が揺れた。
「ほらね、わからないでしょ。綾女、キミはどうすればわかってくれる…?」
そう言って私の唇に社長の唇が重なった。