秘書課恋愛白書
それもご存知なかったんですね、とシェフは言う。
「奥様がお亡くなりになった時、社長は11歳。その後全寮制の中高一貫校に進学されて大学はここからもそう遠くないところに行ったと聞いておりますがここへは来なかった」
私よりもずっと小さい時に母親を亡くしていたんだ…
しかも一番多感な時期に不幸が襲い、社長の子供心は計り知れない。
「ですが、今日あなたを連れてきた。なんていい日なんでしょうね」
「私…社長のこと全然知らないんですね。教えてもらえてよかったです」
「ああ見えてけっこう愛情深い方ですよ。だから側にいて差し上げてくださいね」
「はい…」
柔らかく微笑むシェフに私は自然とそう答えていた。
こんなにも社長を知る人たちに会って話を聞けているのも奇跡かもしれない。
もっと…社長のこと知りたいな。
気づけばそう思っていた。
すると奥の方へと行っていた社長が戻ってきた。
ご無沙汰しております、とシェフが社長に頭を下げる。
「何話してるの?」
「この朝食がとても美味しいなぁって」
「そう。よかった」
フッと笑みを浮かべて席に着くと社長も料理に手をつけ始めた。