秘書課恋愛白書

波の音が心地よい。

すっと鼻を掠める潮の香り。

足の裏にじんわりと熱が広がっていく。

歩き慣れない砂浜でもたつきながらゆっくりと歩いて波打ち際に近づいていく。

ザパーッと足元に広がる波が生暖かく、引き際にひんやりとした感覚を残した。


「きゃー!冷たい!」

「転んで海に落ちないでよ」

「そんなヘマしませんー」


はしゃいで海に足をつける私を少し離れたところから見守る社長。

真っ赤なスポーツカーを浜辺に停めてそのボンネットに腰掛けてる姿も絵になる。

…カッコいいじゃないの。


なんか1人だけはしゃいでるけど、なんで社長はこんなところに私を連れてきたのだろうか。

海を眺めているだけで日頃の疲れを癒してくれる。

波の音が心を洗ってくれる気がした。

しゃがみこんで眺めたり波打ち際を少しだけ歩いてみたりしていると、車のボンネットに腰掛けていた社長が腰を上げた。


そろそろ行くのかな?

足をつける遊びにもだいぶ満足したところで社長の方へ戻ろうと踵を返す。

だが、海に浸かった砂浜は重さを増し私の足をもつれさせた。


「わっわわ!」

「綾女っ…!!」

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