秘書課恋愛白書
「んう……」
「あやめ……」
社長に名前を呼ばれるたびにドキドキする。
優しくて丁寧でとろとろに蕩けてしまいそうなキスを落とされ続ける。
「んっ……ふぅ」
抱きしめられてキスをされ、太陽の照りと波の音だけを感じた。
ぷはっ…と唇が離れる。
社長と目が合うと優しく微笑んでいてゴクリと喉が鳴った。
「この天気ならすぐ乾くと思う。少し浜辺を歩こうか」
そう言われてコクンと小さく頷くと手を取られて、誰もいない砂浜を歩き始めた。
かもめの鳴く声が遠くで聞こえる。
ザパーッと波が返すのを眺め、ただ歩き続けた。
時々吹く潮風がひんやりとしていて気持ちよかった。
握られた左手だけが太陽のように熱く感じた。
少し歩くと社長が口を開く。
「ここ…母が好きだったところなんだ」
「社長のお母様…ですか?」
「どうせシェフから聞いてるんだろ?」
「ま、まぁ…」
僕の周りの人間はお節介なお喋りばっかりだからね、と皮肉っぽく言う。