秘書課恋愛白書

辿り着いたその先に待ち構えている…

母の眠る墓を目前に少し脚が震えた。


「社長…なんでここを知ってるんですか」

「キミのことはなんでも知ってるよ」


時間のせいもあって誰もいない静かな墓地。

目の前には母と祖父母の眠る墓が佇んでいる。

そっと立ち膝をついて抱えていた花束を添える社長。

不覚にも選んだ花は母が生前好きだった赤のカーネーション。

毎年、母の日と誕生日に送ると喜んでいた。


最後に来たのは…去年のお彼岸の頃。

仕事も忙しくなかなか行ける機会がなくて、年に1度訪れていれば良い方だと思っていた。

だが、いざ来てみると母が亡くなってからの数年間あまり来なかったことを後悔し始める。

社長のその姿に震えが止まらない。

何かわからないものが込み上げてきて胸が熱くなった。


「今日は大事な話をしに来たんだよ」

「大事な…話、ですか?」

「綾女だけじゃなくて、お母さんにもちゃんと聞いてもらおうと思って」


膝をついたまま手を合わせて真剣にお参りをする社長の姿に目頭が熱くなっていく。
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