秘書課恋愛白書

そして彼女とマスターの話題は僕のコト。

普段は絶対僕のことを他の人に話したりしないマスターなのに、そこにいる女にはペラペラと話すもんだから驚いた。

そんなに仲が良いのだろうか。

常連らしいが僕ほど通っているなら一度くらい会っているだろうし声に聴き覚えがあってもおかしくないのに。

そんなことを考えていると肩に暖かい気配を感じて揺さぶられた。


「レイちゃん起きて」


優しく僕に声をかけるマスターに仕方なく体勢を変えて女の方へと顔を向けて目を開く。

正直その瞬間、自分でも驚きのあまり声を失った。


僕が"好きだった彼女"がそこにはいて。


一番最初に出会った時のような容姿をした彼女にあまりにも良く似ていて背中にゾワッと電気のようなものが走った。


「…………誰」

「誰でもないです」


誰なんて聞くのもおかしいけどそれしか言えなかったのが本音。

ひくり、と口元を痙攣らせて僕を見下ろす女にやがて好奇心も出てくる。

ズキズキと痛む頭を抱えながら起き上がり、横目でチラリと女の姿を確認する。

年齢は…同じくらいだろうか。

ピンと伸びた背筋が綺麗でカクテルを持つ姿も様になっている。
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