秘書課恋愛白書

「それで浮かれてんだ?」


はい、とアヤメの前に手を差し出した。


「なんですか」

「名刺。ちょうだい」


ヤダと言って首を振る。



「いいじゃん。そんなに浮かれるくらい楽しい仕事なんでしょ。なんの仕事してるか気になる」

「えー…」


眉を顰めて本気で嫌そうな顔をする。

そこそこ新鮮な反応をするアヤメに気づけば少しハマりつつある。

今まで出会った女ならすぐに猫なで声を出してギラギラした目で近づいてくるのに、その気配が全くない。

薬指に指輪はしてない、だが決まった相手でもいるんだろうか。


「こら、レイちゃん。女の子困らせないの。それともアヤメちゃんのこと気に入ったの?」


僕のことはなんでもお見通しのマスター。

女相手にここまで引き退らない僕に珍しいものでも見るような表情を浮かべる。

警戒心むき出しでなかなか渡そうとしないアヤメ。

大方その警戒心の理由は僕の身なりにあるだろう。
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