秘書課恋愛白書
凄く良いスーツなんですよ、と力説して顔を上げると不機嫌が更に拍車かかった社長の顔。
なんか、まずいことでも言いましたでしょうか。
「……社長?」
「…そう。そろそろ送ってく」
「?……はい。ありがとうございます」
ふいっと顔を背けるとそう言って扉に向かって歩いて行った。
私は慌ててそのあとを追いかける。
社長の自宅を出て、エレベーターに乗り込んで初めて自分がいた場所を思い知る。
タワーマンションの最上階に住んでいたとはさすがとしか言いようがない。
天気も良く見晴らしの良い景色に、街中が見渡せた。
窓ガラスにへばりついて景色を眺めていると高速エレベーターはチャイムを鳴らして1階へと到着。
ホテルのロビーのような作りをしたエントランス。
コンシェルジュがいってらっしゃいませ、と社長に頭を下げる横を通り過ぎる。
玄関を出ると、真っ赤なスポーツカーが待機していた。
「こ、これ…」
「乗って。早く乗らないと置いていくよ」
ただの秘書が助手席に乗るのもおこがましいのではないかと思いつつ帰る手段のない私は大人しく社長の車に乗り込む。