秘書課恋愛白書
「こういうの、お好きなんですね」
「まぁ乗りやすいから」
シートベルトを締めながらそう聞けば私の方を見ることなくしれっと返事が返ってくる。
社長の運転で車は発車する。
え、何?
さっきから機嫌悪くない?
それ以上会話は続かなくて、ラジオから流れてくる音楽だけが救いだった。
お互い沈黙したまま車は街の中心部へと入っていく。
…そういえば私、社長に自宅のある場所言ってないような。
「あのー……私の家こっち方面じゃないです」
「だから?」
「いや、自分で帰れますので近くの駅で降ろしてもらえたら助かるのですが」
そこから、ずっと無視。
重々しい空気が車内に流れる。
横目でチラリと社長の様子を伺うが依然としてその態度は変わらない。
一体何をしたいのか、訳がわからん。
さすがにその態度にカチンときて私は口を開いた。
「言いたいことがあるならどうぞ仰ってください!なんですか?!」
「スーツ買いに行くよ」
「スーツ買いに行く!……え?」