未完成のユメミヅキ
試合に視線を戻す。部員がボールを追いかけて走っていく。また誰かがゴールをして生徒から声援があがる。タロちゃんが手を叩いて部員とハイタッチをした。自分のチームが得点したらしい。タロちゃんはわたしと亜弥に気付いて、笑顔を向けてくる。それに対して亜弥と一緒に手を振る。
そうしながらも、目は別な人を探してしまう。和泉くん、やっぱりいない。
「次のチームに交代!」
小谷先生が部員に指示を出す。先輩と後輩の混合チームのようだ。またホイッスルが鳴って、試合が始まった。
視線を外に向けた。すると、体育館へ続く連絡通路のずっと向こうに、ひとりの男子生徒が歩いているのが見えた。すぐに分かった。
「和泉くん……」
制服姿で鞄を持っていたから、帰宅するのかもしれない。
「亜弥。わたし帰るね」
「え? まふ、帰っちゃうの」
「ごめん! またね」
亜弥の声を背中に残したままで、体育館から離れた。
今日は、部活を休んだのかもしれない。全部、想像でしか無いけれど。追いかけて、挨拶だけでもしたいな。
迷惑かな、でも会いたい。お話したい。躊躇しつつも足が勝手に彼を追いかけてしまうんだ。
和泉くんは足が長い。早く行かないと見失ってしまう。連絡通路から校舎に入って、下駄箱を目指す。靴を履き替える彼がいた。
「い、和泉くん」
「……ああ。まふちゃん。いま帰り?」
いま帰り? 一緒に帰らない? そういう流れでいいでしょうか。
というか、彼はわたしをこれからもずっと『まふちゃん』と呼んでくれるのか。
「うん。和泉くんも、いま帰り?」
「おう」
「今日は、部活休みなの?」
外に出ていく和泉くんに置いて行かれないように、自分も急いで靴を履き替える。
「いまね、友達の亜弥と男バスの練習見に行ったんだ、部内で試合しててね……」
和泉くんは、歩きながらちょっと溜息をついた。顔を見てみると不機嫌そうに眉間に皺を寄せている。
「和泉くんも部活出ているかなって思って。いなかったからお休みなのかなぁって思っていたら、そしたらね」
やっぱり迷惑だったかな。追いかけてきて、ひとりで喋ってしまっている。
「う、うるさいね。ごめんね。和泉くんを見かけたから、話したくて……」
「俺、部活やっていないから」
「え?」
立ち止まって、わたしを見た和泉くんの目は、険しくて。部活をやっていないとはどういうことなのか。当然、高校入学してバスケ部に入っているものだと思っているから。
「入ってないから。部活」
「バスケ部じゃ……ないの?」
言い直しても、同じ。怖い顔をして和泉くんはわたしを見下ろした。驚いてしまって、どう反応したらいいのか分からない。
「辞めたんだ。バスケ」
そのひとことで、まわりの音が止んだ。歩く音も、グラウンドから聞こえる生徒の声も。自分の口は開いたまま固まってしまう。
「タロにも言っといてよ。何回も誘ってもらって悪いけれど」
「和泉くん、あの」
「ごめん、急いでいるから」
止んだ音が戻ってきた。有無を言わせない雰囲気で会話を切った和泉くんは、背を向けて歩き出す。ローファーが地面を蹴る音が遠ざかる。
バスケを辞めた?
じゃあ、キーホルダーは? がんばれると言ったのは、なんだった?
聞けない質問ばかりが沸き上がってくる。
どういうことだろう。和泉くんの姿が見えなくなっても、まるで地面に足が埋まってしまったかのように動けなかった。
そうしながらも、目は別な人を探してしまう。和泉くん、やっぱりいない。
「次のチームに交代!」
小谷先生が部員に指示を出す。先輩と後輩の混合チームのようだ。またホイッスルが鳴って、試合が始まった。
視線を外に向けた。すると、体育館へ続く連絡通路のずっと向こうに、ひとりの男子生徒が歩いているのが見えた。すぐに分かった。
「和泉くん……」
制服姿で鞄を持っていたから、帰宅するのかもしれない。
「亜弥。わたし帰るね」
「え? まふ、帰っちゃうの」
「ごめん! またね」
亜弥の声を背中に残したままで、体育館から離れた。
今日は、部活を休んだのかもしれない。全部、想像でしか無いけれど。追いかけて、挨拶だけでもしたいな。
迷惑かな、でも会いたい。お話したい。躊躇しつつも足が勝手に彼を追いかけてしまうんだ。
和泉くんは足が長い。早く行かないと見失ってしまう。連絡通路から校舎に入って、下駄箱を目指す。靴を履き替える彼がいた。
「い、和泉くん」
「……ああ。まふちゃん。いま帰り?」
いま帰り? 一緒に帰らない? そういう流れでいいでしょうか。
というか、彼はわたしをこれからもずっと『まふちゃん』と呼んでくれるのか。
「うん。和泉くんも、いま帰り?」
「おう」
「今日は、部活休みなの?」
外に出ていく和泉くんに置いて行かれないように、自分も急いで靴を履き替える。
「いまね、友達の亜弥と男バスの練習見に行ったんだ、部内で試合しててね……」
和泉くんは、歩きながらちょっと溜息をついた。顔を見てみると不機嫌そうに眉間に皺を寄せている。
「和泉くんも部活出ているかなって思って。いなかったからお休みなのかなぁって思っていたら、そしたらね」
やっぱり迷惑だったかな。追いかけてきて、ひとりで喋ってしまっている。
「う、うるさいね。ごめんね。和泉くんを見かけたから、話したくて……」
「俺、部活やっていないから」
「え?」
立ち止まって、わたしを見た和泉くんの目は、険しくて。部活をやっていないとはどういうことなのか。当然、高校入学してバスケ部に入っているものだと思っているから。
「入ってないから。部活」
「バスケ部じゃ……ないの?」
言い直しても、同じ。怖い顔をして和泉くんはわたしを見下ろした。驚いてしまって、どう反応したらいいのか分からない。
「辞めたんだ。バスケ」
そのひとことで、まわりの音が止んだ。歩く音も、グラウンドから聞こえる生徒の声も。自分の口は開いたまま固まってしまう。
「タロにも言っといてよ。何回も誘ってもらって悪いけれど」
「和泉くん、あの」
「ごめん、急いでいるから」
止んだ音が戻ってきた。有無を言わせない雰囲気で会話を切った和泉くんは、背を向けて歩き出す。ローファーが地面を蹴る音が遠ざかる。
バスケを辞めた?
じゃあ、キーホルダーは? がんばれると言ったのは、なんだった?
聞けない質問ばかりが沸き上がってくる。
どういうことだろう。和泉くんの姿が見えなくなっても、まるで地面に足が埋まってしまったかのように動けなかった。