先輩、好きです。
「先輩!」


体を先輩とまっすぐ向き合えるよう座り直す。


「私、先輩の走りが好きです!」


語彙力が微塵もない私だけど、せめて、せめてこの思いだけでも伝えたい。


そう思った。


「先輩の走りを初めて見た時私、本当に感動したんです」


記憶のピースを一つひとつ大切に思い出していく。


「何にも囚われない、見てる私まで走りたくなるような走り方で、私もこんな風に走りたいって思いました」


手のひらをぎゅっと握り、さらに視線に力を込める。


伝われ…、


「先輩は私の目標です。だから、先輩がスランプって聞いて…私も、胸が苦しくなりました」


伝われ…っ、


「…こんなこと言っても、全然意味ないかもしれないんですけど…」


伝われ!


「私は先輩の姿に勇気もらいました。走るのが怖くなった時、走ることはこんなにも楽しいんだって、清々しいんだって教えてくれたんです」


「笹野…」


「だから、ありがとうございました!先輩のおかげで、私は今ここにいます。先輩は私の恩人です!」


全力の笑顔で先輩へ言う。


伝えたいことは言えた。


この気持ちはいつか先輩が卒業する前までんに伝えようと思っていた。


だから、精一杯の思いを込めて言えてよかった。


「……」


「…先輩?」


反応がない先輩に対し、様子を伺うようにそう尋ねる。


すると、


俯いていた先輩が顔を上げ、その手で私の頭を優しく撫でた。


「…そっか。俺のことそんな風に思ってくれてたんだな。サンキュ」


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