先輩、好きです。

部室を出ると、先輩はグラウンドへ下りる階段に座っていた。


澄み切った朝の空気の中に、自分の心臓の音だけが響いているような感覚。


「先輩」


「お、来たね。隣座ってよ」


横側をトントンと叩き、先輩が示した場所に私も座る。


「私に話ってなに?」


いつものように穏やかな表情で先輩は言った。


膝の上で握った手にギュッと力を込め、俯いていた顔を先輩の方へ向ける。


「…私」


「うん」


「私、近藤先輩のことが好きです」


その言葉に、先輩は目を見開いた。


でもその間は一瞬で、すぐにいつもの眼差しに戻る。


目を、逸らしちゃダメだ。


そう自分に言いかけた。


自分がどのくらい本気なのか、真剣なのか、ちゃんと伝えるために。


「…そっか。その感じだともう、うちのことも知ってるよね」


「はい。この間たまたま先輩たちが話してるのをたまたま…」


少しの間沈黙が流れる。


先輩の横顔からはうまく表情が読み取れない。


どんな顔をしているのか、どんなふうに受け取ったのか、どう思ったのか。


頭の中でぐるぐると回るその思考は、心臓の音ともに大きくなるようだった。


そして、視線をグラウンドの方へと向けた先輩の顔にほのかな笑みが見えた。


「驚いた。…でもどこかでわかってた。渚が颯斗のこと好きなの」


「…」


そう言う先輩の表情にさらに胸が苦しくなった。


「でもね、」


そう呟いた先輩は、再び体をこちらへ向ける。


重なり合うお互いの視線の中に、強い意志が見えた。


「あたしも好きなの、あいつのこと」

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