先輩、好きです。
「渚!」


「梓?どうしたの?」


ついさっきまで予選行っていた梓が、滑走を終えるや否や急いで帰ってきた。


「京果先輩の対戦表みた?」


「え?ううん。見てないけど」


「西高の今年の春大で全国行った選手!先輩と同じ組よ」


西校は県内でうちと肩を並べるほどの強豪校で、その選手は1年生ながら前回大会で全国大会出場を決めた。


この大会でも優勝候補の1人として名を連ねている。


「これは激戦になりそうね」


「うん。でもきっと、先輩なら絶対勝つよ」


前回大会でうちは取れるはずだった全国大会の枠の多くを西校に取られた。


何より、部員である私たちが一番悔しい思いをし、この結果を受けて、顧問は今回の大会に向けてさらに強化したメニューを組んだ。


だから、この大会は部員が各々の思いを抱えて望んでる。


「まずは自分の試合に集中しなきゃ」


「そうね」












そして100メートル走準決勝。


京果先輩の組が、準備を始めていた。


先輩の隣のレーンにはあの西校の選手がいる。


次の組である私も、近くのところで先輩の滑走を見つめている。


選手の名前が紹介され始め、ふい先輩と目があった。


先輩は目を逸らすことなく、口元をこう動かした。


ーー…大丈夫。


ここで負ける先輩じゃない。


先輩が上がってくるって信じてる。


ーー…決勝で。


それからはもう振り返らなかった。


自分の滑走に集中した。


全ての選手の名前が呼ばれ、あたりが静寂に包まれ、そして、


パァンッ。


開始の音が鳴らされた。


ものの10数秒の戦い。


会場の応援も勢いもいっきに増す。


力強く地面を蹴り上げる靴と地面と摩擦音。



溢れる音が、私の胸にも響き渡る。


目を閉じ、体が冷えないように動かしながら聞こえてくる音に耳を傾けた。
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