先輩、好きです。
「京果ーーー!」
「いけぇーっ!」
たくさんの音の中に、先輩への声援が一段と大きくなった。
空気が振動し、地面を蹴る音が遠くへ行ったその時。
「…勝った!!」
この一言が一番に耳に入ってきた。
この言葉で十分だった。
「…」
それでも私は先輩の方を見ない。
先輩は自分の走りを出し切った。
次は、私の番。
それから少しして、次の組も呼ばれた。
「ふぅ」
体の空気を入れ替えるように、深く息を吸って吐く。
準決勝となると、やはり体が強張っているようにも感じる。
前回の大会では超えられなかった準決勝という壁。
それでも、確かな自信がここにある。
『それでは、出場する選手をご紹介します…』
高校名とともに名前が呼ばれ、いよいよレースが始まる。
スターティングブロックに足を合わせ、息を大きくもう一度吐く。
地面から伝わってくる熱が、じりじりと私の心までも焼くような感覚。
目を閉じて、周りの雑音を消す。
聞こえてくるのは始まりを告げる音だけでいい。
…そしてあたりの音が姿を消した。
バンッ!
「はぁ」
足をもがき、
「…はぁっ」
息を切らし、
「…っ」
歯を食いしばり、
「っはぁ」
風を切り、
「はぁ、はぁ、はぁ」
走り抜け、
そして、
白帯を踏んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ…っ」
白線を越え、徐々にスピードを落としながら、空気を貪る。
強く波打つ鼓動が身体中に響きわたり、一気に疲労感が襲う。
「渚!」
観客席から、私の名前を呼ぶ梓の声が聞こえた。
息を整えながら後ろを振り向く。
すると、そこには梓の姿があった。
そして私は梓に向かって勢いよくピースサインを掲げた。
「勝った…っ!」
前回大会で叶わなかった準決勝2位以内。
私は、結果準決勝を1位で通過し、決勝進出を決めた。
これは正真正銘、私の力でもぎ取った決勝進出。
そしていよいよ、
決勝は京果先輩との勝負だ。