先輩、好きです。
こんなにも一勝の重みを感じたレースは初めてだった。
これまでのどの大会とも違う体の奥底からエネルギーが溢れてくるような、そんな感じ。
でも同時に、足がすくむような大きな不安も押し寄せてくる。
私にできることは精一杯を決勝のレースにぶつけること。
観客席には、学校のみんなが、梓が、…先輩が見てくれてる。
私が憧れ、なりたいと思った先輩のように楽しく走ろう。
そう決めた。
***
『これより、決勝戦レースを始めます。選手の皆さんは…』
「渚」
レーンに向かっている途中渚先輩に呼ばれた。
「遠慮とか一切しちゃだねだからね?」
「もちろん。本気でやります!」
「ん、いい笑顔じゃん。じゃあまた向こうで」
「はい!」
スターティングブロックに足をかける間大きく深呼吸した。
On your marks
Set——-,
決勝戦。
夢中で手足を動かし目の前のゴールだけを見る。
頭の中は案外空っぽで、
白帯を踏むその瞬間までただひたすらに、
ただただひたすらに走り続けた。
大きな応援の声とともに行われる息を呑むような一瞬の戦い。
あっという間に全ての選手がゴールを通過し、会場は大きな盛り上がりを見せた。
「はぁ、はぁ、はぁっ」
白線を切ったあと息を整えている私はまだ掲示板を見ていない。
レース後半ゴール直前。
前に選手の姿が見えない状況で、視界の端に京果先輩の姿が見えた。
おそらく私と先輩が上位2位に入っていることは間違いない。
けれど、自分の感覚じゃどちらかわからない。
それほどの拮抗していた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
大きな心臓の鼓動に、体までもが揺れているような感覚すらする。
大きく息を吸ってゆっくりと吐き出す。
「ふぅ…」
膝に置いていた両手を外し、体を掲示板の方へ向けた。
そろそろ覚悟を決めよう。
肩で息をしながらもゆっくりと目を開け、掲示板の一番上の欄を見る。