ユキドケ
寒空の下、帰り道を急ぐ私の後ろを相も変わらず裕太が歩く
朝のあれは無かったことになるのが、幼馴染というもの
「なぁ、なんでおまえっていつもそうなの?」
脈略が分からない質問を投げてきた
「どういう意味?」
「昔はもっと明るかったじゃん」
昔と言えるほどまだ生きてないでしょ、なんてまた可愛くもないことを言いそうになった
「いつもこんな感じじゃない?」
「いや、保育園の頃とか一緒に遊んでたじゃん、楽しそうに」
確かに、その頃は楽しかったかもしれない
出来れば、あの時みたいに笑いあえたらいいけど、もうそれは出来ない
「子どもだったからだよ」
「今も子どもじゃね?」
「そうだけど...、来年から中学生になることだし」
裕太からのツッコミに戸惑ったからか、話を繋げてしまった
自分でも信じられなかった
いつもは会話を繋げようとも思わないからだ
「俺らも中学生になるんだな」
「そうだね」
続いてしまった会話に相打ちを打つ
後ろにいたはずの裕太はいつの間にか隣にいた
でも、あの頃はこれも普通だった
「おまえさ、俺のこと、嫌い?」
唐突な質問に私は固まってしまった
足が止まった私に気づいて裕太も少し前で止まる
振り向いた裕太の顔は真剣だった
これは幼馴染だから気づけるちょっとした変化
「なに、急に、どうしてそんなこと聞くの?」
「気になるから、てか俺が質問したんだけど」
私の目を真っ直ぐに見つめる裕太
そのまま心まで見透かされる気がした私は目を逸らしたかったが、なぜか出来なかった
気になるってなんだ
どうして気になる?
「き、嫌い」
そう言ったとき、やっと目を逸らすことが出来た
嫌い、そうだ、いつもそう思ってるじゃん
なのに、どうして、こうも苦しいんだろう
「まぁそうだよな」
表情は見えないが、いつもと変わらない調子の裕太の声がした
そう言うと、歩き出す気配を感じた
私は裕太の後ろを歩く
「俺さ、おまえと同じ中学校いけないんだ」
「えっ」
また、戸惑わせることを言い始めた
驚きのあまり自然と声が出ていた
「父さんの仕事の都合なんだ」
聞けば、裕太のお父さんの転勤が決まったらしい
少し前から決まっていたことで、タイミングを見計らい、裕太が中学生になるこの時にしたのだ
県外の中学校で、しばらくは会えないと言う
もしかしたら、もう会わない可能性だってある
「ちょっと寂しくなるけど、頑張ってみるわ」
ちょっと、だなんて嘘をつかなくていいのに
嘘だと気づいた私は幼馴染ということを感じられずにはいられなかった
黒いランドセルを背負った私より背の高い裕太は、いつもより小さく弱々しく見えた
それでも、声だけは明るい
「もう守ってあげられないからな」
そう言って振り向いた裕太
顔を見た時、すぐに分かった
やっぱり悲しいんだって
「今まで守ってくれてたんだ」
「だって俺、おまえの幼馴染じゃん」
幼馴染
友だちとも違う、好き同士が付き合う恋人とも違う
どこかもどかしい2人の関係を初めて言葉にした時だったかもしれない
「そうだね、幼馴染だもんね」
無理に笑っている裕太に、なんて声をかけたらいいかなんて分からなかった
作り笑いにつられて、私も微笑み返していた
さっき嫌いだと言った相手と笑いあってるんだから、これは立派な幼馴染だと思う
私達だから出来ることだ
でも、私はあなたから遠ざかるように歩き出す
「じゃあね」
「じゃあな」
いつの間にか家についていたのだ
ただ、それだけが理由ではない
これ以上一緒にいたら
「うっ...ふ...っ」
堪えていた涙が家の扉を閉めると同時に溢れ出した
何が悲しいのか分からない
泣いている私に気づいて玄関へ来た母は、全てを分かってたかのように、何も言わず抱きしめてくれた
肌寒い今日にはあたたか過ぎるほど母の愛を感じた瞬間だった
外では雪がちらちらと降り始めた頃の出来事である
朝のあれは無かったことになるのが、幼馴染というもの
「なぁ、なんでおまえっていつもそうなの?」
脈略が分からない質問を投げてきた
「どういう意味?」
「昔はもっと明るかったじゃん」
昔と言えるほどまだ生きてないでしょ、なんてまた可愛くもないことを言いそうになった
「いつもこんな感じじゃない?」
「いや、保育園の頃とか一緒に遊んでたじゃん、楽しそうに」
確かに、その頃は楽しかったかもしれない
出来れば、あの時みたいに笑いあえたらいいけど、もうそれは出来ない
「子どもだったからだよ」
「今も子どもじゃね?」
「そうだけど...、来年から中学生になることだし」
裕太からのツッコミに戸惑ったからか、話を繋げてしまった
自分でも信じられなかった
いつもは会話を繋げようとも思わないからだ
「俺らも中学生になるんだな」
「そうだね」
続いてしまった会話に相打ちを打つ
後ろにいたはずの裕太はいつの間にか隣にいた
でも、あの頃はこれも普通だった
「おまえさ、俺のこと、嫌い?」
唐突な質問に私は固まってしまった
足が止まった私に気づいて裕太も少し前で止まる
振り向いた裕太の顔は真剣だった
これは幼馴染だから気づけるちょっとした変化
「なに、急に、どうしてそんなこと聞くの?」
「気になるから、てか俺が質問したんだけど」
私の目を真っ直ぐに見つめる裕太
そのまま心まで見透かされる気がした私は目を逸らしたかったが、なぜか出来なかった
気になるってなんだ
どうして気になる?
「き、嫌い」
そう言ったとき、やっと目を逸らすことが出来た
嫌い、そうだ、いつもそう思ってるじゃん
なのに、どうして、こうも苦しいんだろう
「まぁそうだよな」
表情は見えないが、いつもと変わらない調子の裕太の声がした
そう言うと、歩き出す気配を感じた
私は裕太の後ろを歩く
「俺さ、おまえと同じ中学校いけないんだ」
「えっ」
また、戸惑わせることを言い始めた
驚きのあまり自然と声が出ていた
「父さんの仕事の都合なんだ」
聞けば、裕太のお父さんの転勤が決まったらしい
少し前から決まっていたことで、タイミングを見計らい、裕太が中学生になるこの時にしたのだ
県外の中学校で、しばらくは会えないと言う
もしかしたら、もう会わない可能性だってある
「ちょっと寂しくなるけど、頑張ってみるわ」
ちょっと、だなんて嘘をつかなくていいのに
嘘だと気づいた私は幼馴染ということを感じられずにはいられなかった
黒いランドセルを背負った私より背の高い裕太は、いつもより小さく弱々しく見えた
それでも、声だけは明るい
「もう守ってあげられないからな」
そう言って振り向いた裕太
顔を見た時、すぐに分かった
やっぱり悲しいんだって
「今まで守ってくれてたんだ」
「だって俺、おまえの幼馴染じゃん」
幼馴染
友だちとも違う、好き同士が付き合う恋人とも違う
どこかもどかしい2人の関係を初めて言葉にした時だったかもしれない
「そうだね、幼馴染だもんね」
無理に笑っている裕太に、なんて声をかけたらいいかなんて分からなかった
作り笑いにつられて、私も微笑み返していた
さっき嫌いだと言った相手と笑いあってるんだから、これは立派な幼馴染だと思う
私達だから出来ることだ
でも、私はあなたから遠ざかるように歩き出す
「じゃあね」
「じゃあな」
いつの間にか家についていたのだ
ただ、それだけが理由ではない
これ以上一緒にいたら
「うっ...ふ...っ」
堪えていた涙が家の扉を閉めると同時に溢れ出した
何が悲しいのか分からない
泣いている私に気づいて玄関へ来た母は、全てを分かってたかのように、何も言わず抱きしめてくれた
肌寒い今日にはあたたか過ぎるほど母の愛を感じた瞬間だった
外では雪がちらちらと降り始めた頃の出来事である