一匹狼くん、拾いました。






「……君の方がまだ幾分かマシじゃないか。たとえ虐待を受けているとしても、親はまだ生きているんだから。それに、どうせ母親にはちゃんと愛されてるんだろう?






そんなんで、満たされてないだとか、愛が欲しいだとか言うんじゃないよ。君はとっくに満たされてるし、愛されているんだから。…………俺は生まれてこの方、そんな風に思われたことは1度もないよ」





緋也は、泣きそうな顔をしていた。


「緋也……」



俺には、名前を呼ぶことしか出来なかった。




「ご飯食べてなよ。……風呂入ってくる」



思わずその剣幕にびっくりして呆然としていた俺を無視して、緋也は立って部屋を去ろうとした。


コンコン。

しかし、その前に汐美がケーキを持って、部屋に入ってきた。



「失礼します。旦那様、デザートをお持ち致しました。今日はチーズケーキでございます。後、先程物音が……。きゃあ、俊平様血が……っ!すみません、すぐに手当させていただきますね」




汐美はデザートをテーブルに置いた後、慌てて割れたティーカップを片付けて、部屋の隅にあった救急箱を開けた。



「……デザートはいらない。


汐美、僕風呂入ってくるから」



緋也は、今度こそ部屋を去っていった。





その背中は、やたら頼りなさげに見えた。










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