嘘つきピエロは息をしていない


 違う。

 俺が大切に思ってるのは……。

「大きな声、出してごめん」
「さすが演劇部」
「今すぐじゃなくていいから。苦しくなったら相談とかしてね。部長なら、すごく心を軽くしてくれるよ。ほんとに二歳差なのか疑いたくなるくらい大人で……」
「ははっ。今度会ったら伝えておかねぇとな。老けてるってお前が言ってたって」
「……っ、そういう意味じゃなくて。相川部長は本当に頼りに――」

 弁明しなくてもわかる。

 こっちはからかってるだけ。

 なのに必死になりすぎだっつの。

 そういうとこ……かわいすぎるだろうが。

 廃部の危機とか。

 頼り甲斐のある部長とか。

 そういうの、言い方悪いけど、ほんとにどうでもいいんだ。

 そこまで気遣う余裕ねぇんだわ。

 俺はこのところずっと、ひとつのことしか見えてねぇ。

 そいつのことばかり考えてる。

 バカみてぇって思うのにそれが楽しいんだ。

 ――全部、お前のためだよ

 吉川きり。

 お前が喜ぶと思ったからアドバイスしたんだろうが。

 お前が困っていたから放っておけなかったんだろうが。

 付き合いだって時間だって行動範囲だって全部管理されてる俺が。

 くだらねえ俺が。

 できることなんてないに等しい、俺が。

 必死に考えて、柄にもなく手を差し伸べてやったんじゃねぇか。

 演劇部?

 知るか。

 お前が嬉しいと、俺が、嬉しいんだ。

「俺は、演劇部のために動いたんじゃない」
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