嘘つきピエロは息をしていない


「あれ、いっちゃん。どうしたの? 一年生の校舎まで来るなんて」

 いかにも育ちが良さそうな爽やかな男。

 この間友人と歩いてるところを見かけたが輪の中心になっていた。

 ……笑えるくらい俺と正反対なヤツ。

「忘れもの」
「あ」

 一色が吉川に手渡したのは小さめの鞄だった。

「お弁当……!」
和子(かずこ)さんから、あずかってきた」
「うそ!? 忘れてた?……ごめん、ありがとう!」
「友達?」

 俺を見たあと、再びきりに視線を戻す一色。

 俺が内藤だと気づかれてはいないようだ。

 カズコさんというのは、きりの母親だろうか。

 一色は、きりの家族とも面識があるのだろうか。

「うん。ナイキくんだよ」
「……へぇ。友達増えたんだ」

 なんだ?

 今の間。

「そうなの!」

 吉川、自然に俺のこと誤魔化せてる。

 やればできるじゃねーか。

「そっか。きりのことよろしく、ナイキくん。仲良くしてやってくれ」
「どうも。吉川の、お兄さんですか?」

 俺の突拍子もない質問に、吉川が驚いている。

 お前そこは顔に出すなよ。

 揺さぶりをかけた。

 この際、吉川と一色の関係をハッキリさせたかった。

 知りたかった。

 だけど俺は選択を間違えてしまったらしい。

 二人に踏み込んだことを、すぐに大きく後悔することになる。

「いや。俺は、きりの彼氏だ」
< 103 / 294 >

この作品をシェア

pagetop