嘘つきピエロは息をしていない
 それはもう、未だかつてわたしは、こんなに綺麗な男の子を見たことがないってくらいの。

 二次元的なオーラを放っているという点においては、西条くんを上回っている。

「……これは、幻?」

 私は、理想の男子部員を追い求めるがあまり、自分に都合のいい幻覚をみてしまっているのだろうか。

 男子の制服を着ているが女の子なんじゃないかと目を疑うほどの可愛い寝顔を、まじまじと確認する。

 幻覚でなければ、妖精なんじゃないかって思えてきた。

(……ふつくしい)

 この人ほんとに、あの、丸眼鏡くん?
 目が、そらせない。

〝釘付けになる〟って、まさに、こういうことだと思った、その時。パチリと瞼が開かれた。

「や、あの、私はけっしてあなたを襲おうとしていたわけでは!!」

 咄嗟に意味不明な言い訳を始めた私に、

「君は。……今朝の」

 小さいけれど澄んだよく通る声でそう囁いたのは――まさに王子様。

 いや、お姫様にも見える。

 とにかく西洋の絵本から飛び出してきたみたいな造形をしているのだ。

 ――王子が、目覚めた

「今、何時かな」

 そう問いかけられ、慌てて左手首にはめている腕時計を確認する。

「休み時間が終わる七分前くらい、です!」

 ちなみに右手には王子から奪った眼鏡を持っていて、咄嗟に背中にまわして隠してしまった。

「そう。なら、そろそろ戻らなきゃだね」

(とっても綺麗な声。透き通るような……)

 王子が、ゆっくり立ち上がる。

 その仕草さえ絵になっていて、ここは王宮の庭かなにかなんじゃと錯覚してしまいそうだ。

 校舎に向かって歩き始める王子。

「待って!!」
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