嘘つきピエロは息をしていない
 普通に歩いているけど。

 前、見えるのかな。

 レンズの分厚さからして相当近眼だと思うのだが。

「ごめんなさい。これ、返します」

 駆け寄り、眼鏡を差し出す。

「は?」

 目を細める、王子。

「本当に、ごめんなさい! つい、出来心で。その……」

 王子が、自分の顔に手をあてている。きっと寝ぼけていて眼鏡をかけていないことに、すぐには気付かなかったのだろうなぁ。

(って……あれ?)

「この眼鏡、度が入ってない」

 覗き込んだ向こう側にはそのままの景色が映し出されていた。

 校舎をバックに立つ美少年。

 重力でまた前髪が顔を覆っていて、今は片目だけが見えている。

「おい、お前」

 低い声にあっと驚く。

 あまりにもさっきまでと違うかったから。

「俺の素顔。見たな?」
「え、あ、うん」

 見ましたけれども……なにか?

 なんだか凄い剣幕で王子から見られている。

 そんなに眉間にシワを寄せたら、美しい顔が台無しだよ?

「このことは、黙ってろよ」
「え……。このことって」
「さもなけりゃ、お前を地獄に叩き落とす」
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