嘘つきピエロは息をしていない
――地獄!?
呆然と立ちすくむ私から、眼鏡を取り戻そうとする王子。
(さ……させるか!)
眼鏡を、ブレザーの内ポケットへと入れた。
「これで簡単には奪い取れまい――」
私、この人と話がしたい。
これはそのための時間稼ぎだ。
こんな場所に男子が手を触れてくるわけないと、思ったのに。
「生憎、お前の身体に触れることくらい俺は容赦ないから」
「へっ……」
そっと近づいてきた王子は、私の肩に右手をポンと乗せ――左手であっさりと内ポケットから眼鏡を取り出す。
「そんな。いとも簡単にっ……」
「バーカ。なに固まってんの? もしかして男に触られたことない?」
――耳元で、そう囁かれた。
「なっ……、ちょ……えぇっ!?」
「俺の素顔のこと誰かに喋ったらマジで許さねぇから」
そう言い捨てると、王子は眼鏡をかけ地味メンになって行ってしまった。
なんなの、今の。
なんなの、この胸の高鳴りは……!?
「見つけ……ちゃった。見つけちゃったよ!」
彼なら。
彼なら絶対、観客の心を掴める素敵な俳優になれる。