嘘つきピエロは息をしていない

 ――地獄!?

 呆然と立ちすくむ私から、眼鏡を取り戻そうとする王子。

(さ……させるか!)

 眼鏡を、ブレザーの内ポケットへと入れた。

「これで簡単には奪い取れまい――」

 私、この人と話がしたい。

 これはそのための時間稼ぎだ。

 こんな場所に男子が手を触れてくるわけないと、思ったのに。

「生憎、お前の身体に触れることくらい俺は容赦ないから」
「へっ……」

 そっと近づいてきた王子は、私の肩に右手をポンと乗せ――左手であっさりと内ポケットから眼鏡を取り出す。

「そんな。いとも簡単にっ……」
「バーカ。なに固まってんの? もしかして男に触られたことない?」

 ――耳元で、そう囁かれた。

「なっ……、ちょ……えぇっ!?」
「俺の素顔のこと誰かに喋ったらマジで許さねぇから」

 そう言い捨てると、王子は眼鏡をかけ地味メンになって行ってしまった。

 なんなの、今の。

 なんなの、この胸の高鳴りは……!?

「見つけ……ちゃった。見つけちゃったよ!」

 彼なら。

 彼なら絶対、観客の心を掴める素敵な俳優になれる。
< 14 / 294 >

この作品をシェア

pagetop