嘘つきピエロは息をしていない
靴箱に向かう途中、よく知る背中を見つけ、大きく胸が跳ねた。
――ナイキくんだ。
いつも一人でいるのに、女の子といる。
一体全体、なにがあったのだろう。
ナイキくんと対面して話しているその子は、どことなく部長に雰囲気が似ていた。
つまり私とは真逆のタイプだ。
そう考えるとなんだか胸がざわついてくる。
その正体がハッキリわからないままナイキくんの真横を通過した。
ナイキくんの横顔を見つめてみたけれど、こっちに気づく気配ゼロ。
気付いたところで私と付き合いがあることをあまり周りに知られたくないみたいだから、会話なんて交わせない。
……なんだろう、この煮え切らない感情は。
「好きだよね」
「え?」
「人って、珍しいものが」
西条くんがなにを言っているか理解できないまま靴箱に到着し、外靴に履き替えた。
そっと、うしろを振り返ってみる。
わかってはいたが、ナイキくんの姿はもう、そこにはなかった。